韓国の時代劇ドラマを見ていると、ものすごい悪女が登場して「超ムカつく」「はらわた煮えくり返る」みたいなことがよくあります。
朝鮮王朝の歴史に残る6大悪女について、登場する韓流ドラマとあわせて紹介します。
もくじ
【朝鮮王朝時代の悪女①】文定王后(1501~1565)
仁宗の暗殺に関与
文定王后(ムンジョンワンフ)は第11代王・中宗の第3王妃。
我が子である慶源大君(キョンウォンデグン)を王位に就かせるため、中宗の先妻の息子だった12代王・仁宗(インジョン)の暗殺を複数回に渡り企てた。 仁宗の死因は未だ不明で、文定王后による毒殺説も根強く残っている。
チョン・ナンジョンと悪女コンビ
中宗晩年期から弟の尹元衡(イ・ウォニョン)とその妻鄭蘭貞(チョン・ナンジョン)らと共に政治に介入し始める。
中宗が亡くなると王大妃となり、仁宗の没後は11歳で即位した息子・明宗に代わり大王大妃として摂政政治を行う。持ち前の優れた政治感覚と絶大な権限をもって家臣を抑えこみ、一族で権力を独占。結果賄賂が横行し、悪政によって民は疲弊した。
悪政は誰にも止められることはなく、”朝鮮王朝最大の不幸”と呼ばれた文定王后の女人天下は彼女が亡くなる直前まで続いた。
偶然が産んだ最悪
中宗の第1王妃であった端敬王后(タンギョンワンフ)は7日間で王妃の身分を剥奪されて後宮を追放された、いわゆる”七日の王妃”。
第2王妃であった章敬王后(チャンギョンワンフ)は中宗の長男(のちの仁宗)を産んだ後に亡くなっている。
この2人のどちらか一方でも王妃として健在であったなら、文定王后が天下をとることもなかった。まさに偶然が重なって最悪の悪女が誕生したといえる。
文定王后が登場する作品
女人天下(2002)
ムンジョン王后を演じたチョン・イナがSBS演技大賞に輝いた作品。
宮廷女官チャングムの誓い(2003)
主人公のチャングムを信頼して支援する人物として描かれています。演じたのはパク・チョンスク。悪女色はありません。
オクニョ 運命の女(2016)
チョン・ナンジョンとセットで登場。名女優キム・ミスクが存在感たっぷりに演じています。
【朝鮮王朝時代の悪女②】貞純王后(1745~1805)
年齢差50才以上の側室
貞純王后(チョンスンワンフ)は第21代王・英祖の2番目の王妃(継室)。第1王妃の貞聖王后が亡くなった後、わずか14歳だった彼女は66歳の英祖の正室として迎えられた。
貞純王后は老論派の重鎮の娘であったため、10歳ほど年上でしかも少論派寄りだった義理の息子・思悼世子(サドセジャ)とは折りが合わなかった。
米びつ事件の発端
父親に入れ知恵された貞純王后が思悼世子の非行を英祖に告げ口して思悼世子を貶め、父子の関係が悪化。ついに英祖の逆鱗に触れた世子は米びつに閉じ込められ、そのまま餓死した。
このとき”思悼世子の米櫃事件”の一端を担ったことは、のちのち思悼世子の息子イ・サン(正祖)との確執を生む。
正祖毒殺疑惑
病に倒れた正祖が危険な状況に陥った際に、それまで不仲だった貞純王后は自ら看病をかって出て、側近たちを部屋から追い払う。しばらくして部屋から貞純王后のすすり泣く声が聞こえたため側近たちが慌てて駆けつけると、すでに正祖が息を引き取ったあとだったという。そのため貞純王后が正祖を毒殺したという説が現在でも根強く残っている。
正祖の死後も君臨
正祖の死後は息子の純祖(スンジョ)が10歳で即位。当然のように貞純王后が実権を握り、正祖が行った政策や改革をことごとく潰し、正祖が重用した高官たちを次々と罷免。また、カトリック教弾圧と称して数万人もの人々を処刑した。貞純王后は60歳まで生き、天寿を全うした。
貞純王后が登場する作品
貞純王后は数多くの作品に登場しています。
イ・サン(2007)
名女優のキム・ヨジンが怪演し、強烈なインパクトを残しました。
風の絵師(2008)
狡猾で野心に満ちた貞純王后をイム・ジウンが演じました。
【朝鮮王朝時代の悪女③】純元王后(1789~1857)
3代の王に関与
純元王后(スヌォンワンフ)は第23代王・純祖の正室。第24代王憲宗の祖母であり、第25代王哲宗の養母でもある。実家は強大な勢力を持つ氏族・安東金氏(アントウキンシ)の家系。
純祖との間にできた孝明世子は早世し、純祖の崩御後は孫の憲宗が8歳で即位。その15年後に憲宗が亡くなると、純元王后は江華島で暮らしていた末端の王族である哲宗を呼び戻し、養子縁組をさせた上で即位させた。
一族で富を独占
純祖・憲宗ともに性格が穏やかで主体性が無く、純元王后にとって扱いやすい存在だった。さらに哲宗に至っては、政治の知識はおろか字も満足に読めない無学な青年だった。純元王后にとってはそのほうが好都合で、実質権限を一切持たせなかった。
3代の王に関わった純元王后の助力により、安東金氏は一族で富と権力を独占し、反対勢力をことごとく粛清、法律や制度を自分たちの都合に合わせて変えていった。
純元王后が登場する作品
純元王后を描いた作品はあまりない。
雲が描いた月明り(2016)
劇中でハン・スヨン扮する中殿キム氏は純元王后がモデル。
哲仁王后<チョリンワンフ>(2020)
劇中でぺ・ジョンオクが純元王后を演じている。基本的にコメディ作品なのであまり悪女っぽくはない。
【朝鮮王朝時代の悪女④】チョン・ナンジョン(?~1565)
奴婢から成り上がる
チョン・ナンジョン (鄭蘭貞)は奴婢の家に生まれたが、美貌を生かして自ら妓生となり、宴席で文定王后の実弟イ・ウォニョン(尹元衡)に見初められて側女となる。
上昇志向の高かったナンジョンは文定王后に取り入った。文定王后と敵対していた側室の敬嬪朴(キョンビンパク)氏を陥れて宮中から追放させるなど、裏で暗躍していたと考えられている。
イ・ウォニョンの正妻が死去した後は継室となったが、イ・ウォニョンと共謀して正妻を毒殺したという説もある。
最期は自害
文定王后の権力を傘に着て、ウォニョンとナンジョンの夫婦はありとあらゆる悪事に手を染めて富を蓄えていたため、当時の民衆からの評判は最悪で、宮中にも敵が多かった。そのため、文定王后が亡くなった後の周囲からの風当たりは強く、夫婦は身の危険を感じて郊外へ逃げた。
二人は田舎でひっそりと暮らしていたが、最期は近所にたまたま訪れた都からの使いを刺客と勘違いし、ナンジョンは恐怖のあまり毒をあおって自害した。ウォニョンはその後しばらくして、ナンジョンの墓の前で自害しているのが見つかった。
チョン・ナンジョンが登場する作品
女人天下(2002)
チョン・ナンジョンの生涯を詳細に描いた作品。演じるのは韓国を代表する女優のカン・スヨン。ムンジョン王后も登場。
オクニョ 運命の女(2016)
パク・チュミ演じるチョン・ナンジョンはかなりの悪女。
【朝鮮王朝時代の悪女⑤】チャン・ヒビン(1659~1701)
粛宗の側室で景宗の実母
第19代王・粛宗(スクチョン)の王妃であったチャン・ヒビン(禧嬪張氏/ヒビン・チャンシ)は強大な権力を誇る絶対王・粛宗の寵愛を一身に受けた女性。第20代王・景宗の実母。本名が玉貞(オクチョン)なのでチャン・オクチョンとも言われる。
類まれな美貌をもつチャン・ヒビンは女官として入宮してすぐに粛宗の目に留まり、ほどなく側室として迎えられる。粛宗の度を越した寵愛ぶりが粛宗の実母である明聖(ミョンソン)王后から危険視されて一時は宮廷から追い出されるも、粛宗の正室である仁顕(イニョン)王后の計らいで宮廷に戻ってくる。
王妃から転落、最期は死罪に
子のできなかった仁顕王后に相対し、チャン・ヒビンはほどなく男児ユン(のちの景宗)を出産。王子の誕生に狂喜した粛宗は嫉妬深いという理由をつけて仁顕王后を廃妃。チャンヒビンが王妃となる。
この頃からチャンヒビンは宮廷でわがまま放題に振舞うようになる。粛宗の愛も次第に冷めて、新たな側室として淑嬪崔氏(スクピン・チェシ)を迎えて寵愛したり、一度は廃妃にした仁顕王后を王妃に戻したりする。
仁顕王后が亡くなった折に「チャン・ヒビンが呪詛を行っていた」という淑嬪崔氏からの告発により、粛宗はチャン・ヒビンに死罪を言い渡す。
処刑前に「息子に会いたい」と申し出たチャンヒビンは、粛宗の見ている前で息子ユンの下腹部につかみかかり、ユンは激痛で卒倒。これが景宗に子どもができず早死にした原因となったと言われている。
中人(良民)から王妃の位にまで上り詰めたため、”朝鮮王朝のシンデレラ”と称されることも。
チャン・ヒビンが登場する作品
チャン・ヒビンを主人公にした作品は過去に5作ほど制作されています。
張禧嬪[チャン・ヒビン](2002)
キム・ヘスが演じたチャン・ヒビンは印象的で、チャンヒビン女優の代表格となっています。
チャン・オクチョン-張禧嬪-(2013)
キム・テヒが演じています。
【朝鮮王朝時代の悪女⑥】チャン・ノクス(?~1506)
国を傾かせた美しい悪女
チャン・ノクス(張緑水)は希代の暴君として知られる第10代王・燕山君の寵愛を受けた後宮。30歳にして10代のような美貌と美しい歌声を持つ妓生(キーセン)だった彼女は、王の寵愛を受けて瞬く間に王宮の頂点に立つ女性となる。
チャンノクスは権力を乱用。実の姉とその息子の身分を平民に格上げし、姉の夫を別監(宮中の下級役人)にまで引き上げた。また、他に2人いた側室を謀略によって処刑させた。酒宴の席でノクスのチマ(スカート)を誤って踏んでしまった妓生は燕山君によりその場で切り捨てられた。
最期は斬首刑に
王室の宝飾品を私物化したり、国庫を使ってぜいたく品を購入したりと、欲望の赴くままにやりたい放題。まさに国を傾かせる悪女ぶりは国民の間でも悪評が吹き荒れるほど。
国庫が空になった頃、宮廷クーデターにより燕山君は失脚し、チャン・ノクスは斬首刑となった。彼女の死体は放置され、多くの民衆がそれに石を投げたため、瞬く間に石塚が出来たとされている。
チャン・ノクスが登場する作品
チャン・ノクスは数多くの作品に登場しています。
逆賊 -民の英雄ホン・ギルドン-(2017)
妖艶なチャン・ノクスをイ・ハニが熱演。斬新な解釈の元に少々美化されており、若き日のホンギルドンとのロマンスなども盛り込まれています。
七日の王妃(2017)
「ボイス」シリーズなどで知られるソン・ウンソが演じています。
まとめ
以上、朝鮮王朝の歴史に残る悪女6人についての紹介でした。
悪行は印象に残るものなのか、悪女や暴君の記録というのは噂も広がりやすく、後々まで語り伝えられるようです。
ドラマで見ているだけでも酷い悪女ですから、実際にはもっと酷かったのかもしれません。