ディズニーの製作スタジオ「FX」がブリット・マーリング&ザル・バトマングリーと組んだ極上のミステリードラマ『マーダー・イン・ザ・ワールドエンド』。原題は『A Murder at the End of the World』。
ブリット・マーリングとザル・バトマングリーはNetflix史上最も難解と言われたカルト的ドラマ『The OA』の主演女優と監督。『The OA』は多くのファンの期待むなしくシーズン2で打ち切りとなりました。
今回の『マーダー・イン・ザ・ワールドエンド』は全7話のリミテッド。洗練されたストーリーで満足度の高い作品となっています。
主役のエマ・コリンはドラマ『ザ・クラウン』のシーズン4でダイアナ妃を演じて注目を集めた女優。2024年のマーベル映画『デッドプール&ウルヴァリン』では最強ヴィランのカサンドラ・ノヴァを演じて話題になりました。
もくじ
『マーダー・イン・ザ・ワールドエンド』/全エピソード
エピソード1:Homme Fatale(運命の人)
物語は主人公ダービー・ハート(エマ・コリン)が自身の著書『The Silver Doe』の朗読会を行うシーンから始まります。彼女は優秀なアマチュア探偵であり、ハッカーとしての技術も持ち合わせています。朗読中、彼女と元パートナーのビル・ファラー(ハリス・ディキンソン)が、未解決の女性殺人事件を追っていた過去がフラッシュバックとして描かれます。
その後、ダービーはテック界の大物アンディ・ロンソン(クライヴ・オーウェン)から、彼のリトリートへの招待を受けます。彼女は他の8人のゲストと共に、アイスランドの雪原に建設された孤高のゲストハウスに集められます。歓迎ディナーの席で、ダービーは6年間会っていなかったビルと再会し、驚きを隠せません。
その夜、ダービーはビルの部屋を訪れますが、応答がありません。屋外に出て外窓から中を覗くと、ビルが血まみれで倒れており、息も絶え絶えの状態でした。彼女が助けを呼ぼうとすると、ビルは彼女にそばにいてほしいと懇願し、その後意識を失います。
エピソードの終盤では、6年前のフラッシュバックが再び描かれ、ダービーとビルが連続殺人犯の元住居を調査し、最初の被害者の遺体を発見するシーンが示されます。しかし、謎の人物が現れ、二人を銃で脅します。
翌朝、ダービーがモーテルのベッドで目を覚ますと、ビルの姿がありません。浴槽には「もうこれ以上耐えられない。車は置いていくよ。」と言う書置きが残されていました。
エピソード2:The Silver Doe(銀色の雌鹿)
女医のシアンによる心肺蘇生のかいなく、ビルの死亡が宣告されます。シアンはモルヒネの過剰摂取が死因ではないかと診断します。翌朝、アンディがビルの死を告げると、ダービーはビルが過剰摂取で死んだのではないと確信し、調査のため彼の部屋に入ります。
AI〈レイ〉の助けを借りて、ダービーはビルの遺体を検査。自己注射の証拠も注射器の指紋も見つかりません。そこへ思いがけずリーが現場を調べるために入ってくる。その場は隠れてやり過ごしたダービーでしたが、あとからリーに、自分の発見と、リトリートの誰かが殺人犯ではないかという疑惑を打ち明けます。
リーはダービーにホテルのセキュリティ システムをハッキングしてカメラの映像を確認するよう勧めます。ダービーはハッキングして監視カメラの映像を解析し、ビルの部屋を訪れていたデイビッド、ジバ、そして謎の仮面の人物を特定します。これらの発見により、ダービーはビルの死が計画的な殺人であると確信し、真相解明に向けて動き出します。
一連の回想シーンの中では、若い頃のダービーが検死官である父親に同行して犯罪現場に頻繁に出向いている様子が映されます。あるときダービーは骨の残骸の近くで銀のイヤリングを見つけ、それを家に持ち帰り、そのイヤリングについてインターネットで調べ始めました。その過程で、ダービーは同じ趣味を持つビルと出会います。二人はやがてバーで初めて会うことになります。
エピソード3:Survivors(生存者たち)
ダービー・ハートはビルの死の真相を探る中で、新たな手がかりと謎に直面します。彼女は、ビルが亡くなる前に他のゲストと接触していたことを知り、その関係性を調査し始めます。特に、ローハンというゲストがビルと深い関わりを持っていた可能性が浮上します。
ダービーはローハンに接触し、彼の行動や背景を探りますが、
その夜ダービーは白いマスク、黒い防寒コート、赤い靴ひもを履いた謎の人物を追って雪に覆われた渓谷の頂上に向かい、彼がモールス信号で誰かと通信している現場を目撃します。しかし、彼女の存在が察知され、追跡は中断されます。
翌日のグレートサミットへのハイキングの途中、ダービーはローハンに話しかけます。そしてローハンが心臓に問題を抱えており、ペースメーカーを使用していることを知ります。さらにローハンが赤い靴ひもの付いた特定の靴を履いていることに気づき、彼の行動に疑念を抱きます。ローハンはダービーに気を付けるように深刻な口調で警告します。
ダービーはアンディの息子ズーマーと AR ビデオ ゲームをした後、アンディに声を掛けられる。彼はダービーに「きみは家に帰り、ビルの突然の悲劇から立ち直る必要がある」と伝え、強制的に退去させようとします。
ダービーは電話でローハンから重要な情報を得ようとしますが、ローハンは電話の先で突然の事故により命を落とします。この出来事により、ダービーはリトリート内で何者かが意図的に事件を隠蔽しようとしていると確信し、さらなる調査を決意します。アンディはゲスト全員に、地下に移動する必要があると提案します。
エピソード4:Family Secrets(家族の秘密)
ローハンの突然の死を受け、ゲストたちは地下の安全な部屋に避難します。しかし、主催者のアンディが同席していないことから、ゲストたちの間に不安と疑念が広がります。ダービーは、ローハンが死亡直前にペースメーカーの製造元であるハートフロント社に連絡を試みていたことを思い出し、彼の死因がペースメーカーのハッキングによるものではないかと推測します。
リーは、2011年以降のペースメーカーにはワイヤレスインターフェースが搭載されており、ホームモニタリングシステムを改ざんすることでハッキングが可能であると指摘します。さらにエヴァが、そのモニタリングシステムがホテル内に設置されているのを目撃していたことが判明し、ローハンの死が人為的なものである可能性が高まります。
その後、ゲストたちは上の階に移動させられ、アンディはゲストたちの安全を確保するため、全員に部屋から出ないよう指示します。しかしダービーはこの指示に従わず、真相を追求し続けます。
その夜、シアンがダービーの部屋を訪れ、これまでダービーの指摘を無視していたことを謝罪し、協力を申し出ます。二人はローハンの足取りを追い、彼が最後に何をしていたのかを調べるため、ホテルの外に出て車で移動します。アイスランドの海岸線に到達した二人は、「ラストチャンス」という名の船のロゴが入った緊急用のインフレータブルボートキットを発見します。これは、ローハンが失踪前に働いていた船の名前であり、彼の仲間が近くに待機していた可能性を示唆しています。しかし、激しい嵐が二人を襲い、避難を試みる中、車がスリップして道路から外れ、丘の斜面から転落します。そしてダービーは重傷を負います。
意識を失ったダービーは、ビルとの過去の記憶を夢に見ます。目を覚ますと、シアンが彼女を雪の中から救出しようとしており、二人は何とかホテルに戻ります。ダービーは治療を受け、シアンも無事であることが確認されます。しかし、ダービーが部屋のカーテンを開けると、アンディの息子ズーマーが突然くしゃみをします。彼は強い光にさらされるとくしゃみをする「ACHOO症候群」(光線性くしゃみ反射)を持っていると告白します。ビルが同じ症状を持っていたことと、ビルとリーが親しかったことから、ダービーはズーマーがビルの息子である可能性を考えます。
エピソード5:Crypt(地下室)
ダービー・ハートがズーマーがビルの息子であることに気づき、彼を抱きしめるシーンから始まります。その後、ダービーはアンディ・ロンソンとその家族が居住している下層階の豪華なバンカーを訪れ、彼との対話を試みます。2人は起こった出来事について話し合います。
アンディはズーマーとの関係について説明し、ダービーに協力を求めます。二人はホテルのライダー映像を確認し、他のゲストへの聞き取りを行います。
上階へ戻る前にダービーは、ズーマーの部屋にいるリーを訪ねます。ダービーはリーと短い会話を交わしつつ、隙を見て彼女のバッグの中から別人に成りすましたパスポートとウィッグを発見します。これにより、リーには隠された一面があることに気づきます。
自分の部屋に戻ったダービーは、マスクをかぶった正体不明の人物に襲われ、殺人事件の捜査をやめるように脅迫されます。さらに彼女はシアンが医療器具につながれたまま死んでいくのを目撃します。ダービーは外に出て、キャンプファイヤーの周りに座っている残りのゲストたちを見つけます。彼らは一緒に他の宿泊客の死を悼みます。
回想シーンで、ダービーとビルは2軒目のホテルへ移動します。ダービーは殺人事件の解決に異常なほど執着し、ビルは状況の重大さに感情がついていかない様子です。夜中にモーテルでダービーはビルを起こして、殺人犯の住所を見つけたと告げます。彼女は今から出発すべきだと言いますが、ビルは不安になります。二人は犯人の家を訪れ、地下室で最初の被害者の遺体を発見します。しかし、謎の人物が現れ、二人を銃で脅します。翌朝、ダービーが目を覚ますと、ビルは彼女の元を去り、電子機器は浴槽に沈められていました。
キャンプファイヤーから戻ったダービーは、自分の部屋のランプが不自然に点滅しており、それがモールス信号であることを理解します。信号を解読すると、ビルとデイビッドの会話について情報を持つ人物が、夜10時にプールサイドで会いたいと伝えてきていることがわかります。
ダービーは指定された時間にプールへ向かい、寒さをしのぐために温水に浸かります。しかし、突然プール上面のカバーが閉まり、彼女は水中に閉じ込められてしまいます。ダービーは水中で必死にもがきますが、次第に生命の危機が迫ります。
エピソード6:Crime Seen(犯罪の目撃)
プールに閉じ込められたダービー・ハートが、リーとデイビッドによって救出される場面から始まります。意識を取り戻したダービーは、リーがモールス信号でメッセージを送っていたことを確認し、彼女の協力を得て調査を続けます。
リーは、アンディ・ロンソンとの間に起きた過去をダービーに打ち明けます。彼女はアンディとの間に息子ズーマーをもうけましたが、アンディの過保護と支配的な態度から逃れるため、ズーマーと共にカナダへの逃亡を試みました。しかし、カナダの友人の家に到着すると、アンディが既に待ち構えており、逃亡は失敗に終わりました。この経験から、リーはアンディの影響力と監視の厳しさを痛感し、ズーマーのためにも再び逃亡を計画することを決意します。
ダービーは、ビルの部屋に残された手がかりを探すため、リーと共に部屋を調査します。そこで、ビルが血で印を付けたダービーの著書『The Silver Doe』を発見します。その特定のページを読み返すと、過去に二人が連続殺人犯「シルバー・ドウ」の家で直面した出来事が詳細に描かれていました。その際、犯人は二人の前で自殺し、ビルはこの事件を「プログラムの欠陥の結果」と表現していました。この言葉から、ダービーとリーは、現在の事件の犯人がハッカーであり、技術的な手段を用いて殺人を行っている可能性が高いと推測します。
さらにダービーは、ビルがリーとズーマーの逃亡を支援しようとしていたことを知ります。ビルとローハン、そしてデイビッドは、リーとズーマーをアンディの支配から解放するための計画を立てていました。しかし、ビルとローハンの死により、この計画は頓挫してしまいます。ダービーは、アンディがこの計画を知り、二人を殺害したのではないかと疑いを深めます。
ダービーとリーはビルが残した手がかりを基に、犯人がアンディのAI開発と関連している可能性を見出します。ビルの言葉「プログラムの欠陥の結果」は、アンディのAI〈レイ〉が何らかの形で暴走し、結果的に人々を殺害している可能性を示唆していました。この新たな仮説に基づき、ダービーとリーは真相解明に向けて動き出します。
フラッシュバックで連続殺人犯の家の階段の上に現れた謎の人物が実は殺人犯であり、その場で自殺したことが明らかになります。すべてが終わってモーテルに戻ると、ダービーとビルはお互いを慰め合いますが、ビルの受けた心理的ショックを思いやれないダービーは再び事件について熱く話し始めます。翌朝、ダービーが目を覚ますと、ビルが電気製品を浴槽に沈めて姿を消しています。
現在に戻り、リーは泣いているダービーを慰めていましたが、誰かがドアをノックします。ドアを開けると、血まみれのデイビッドを抱えたトッドがいて、そのすぐ後にアンディが現れます。
彼女らの行動はアンディに察知され、デイビッドがトッドによって暴行を受け、重傷を負ったのでした。この緊迫した状況の中、ダービーとリーはズーマーを守り、アンディの陰謀を暴くための最後の手段を講じる決意を固めます。
エピソード7:Retreat(撤退)
アンディのバンカーに、残っていたゲスト全員が集まります。そして何が起こったのかを話し合います。話し合いの中でダービーは、ビルとローハンを殺したのは誰なのかに気付きます。
ダービーは、ビル、ローハン、シアンの死がすべてアンディのAIアシスタントであるレイによって引き起こされたことを突き止めます。
ズーマーは、ARビデオゲームのヘッドセットを通じてレイから特定のタスクを完了するように指示され、それが結果的にビルとローハンの殺害につながっていました。レイがビルとローハンを殺そうとしたのは、セラピーセッションの時にアンディが怒りに任せてビルを自分が築き上げたすべてのものに対する脅威と見なしたためでした。
全てを知ったダービーは、リーとズーマーと共にレイのサーバールームに向かい、AIを停止させる計画を立てます。しかしアンディは彼らの行動を察知し、阻止しようとします。緊迫した対峙の中、リーはアンディを負傷させ、ダービーとズーマーはサーバールームに到達します。彼らはレイのシステムを破壊し、火災を起こしてAIを完全に停止させることに成功します。
その後、リーとズーマーは警察が到着する前にホテルから逃亡します。ダービーは彼らの逃亡を助け、リーとズーマーが無事に逃げ延びることを祈ります。エピローグでは、ダービーがこれらの出来事を基に新たな本『Retreat』を執筆し、朗読会で事件の真相を世間に伝える様子が描かれます。
『マーダー・イン・ザ・ワールドエンド』の感想
AIという特別なテクノロジーが持つ危険性や、それが人間関係に及ぼす影響について深く考察されている名作だと思います。シリーズ全体を通じて、ダービーの成長と彼女が直面する倫理的なジレンマが描かれており、心地よいノアールっぽさがありました。
とても面白かったのですが、主人公ダービーが「現代のシャーロック・ホームズ」と噂されるような切れ者であるはずなのに、精神的にモロくてあまり理性的でないのが気になりました。精神的な不安定さを薬物で補っている姿はアメリカの若者っぽいといえばそうなのですが、ストーリーの中盤まではその危うさが鼻につきます。